風 花 36

携帯が鳴った・・・朝美からだ。
「もしもし…」
「真咲ちゃん?久しぶり。元気?」 いつもの明るい朝美の声だ。
「はい…」 
「あら どうしたの?具合でも悪いの?」
「…いえ…なんでも…」 ないと言おうとしたが、声にならず 嗚咽が漏れた。
「真咲ちゃん?どうしたの?大丈夫?」 
朝美はしばし 真咲の泣くのに付き合った。

「…ごめんなさい…すみません。後で・・・私から掛けます。」
「ううん いいの。大した用事じゃないから。でも…大丈夫? 私でいいなら話してみる?」
「…いえ…すみません。」 謝って電話を切った。
ふっとため息をついて電話を眺めていると、いつの間にか雅紀がドアのところに立っていた。
「何か言った?」 憮然として朝美に訊いてくる。
いつもなら 『立ち入るなよ』 と睨むのに今日はそれがない。
「…ううん…泣いてた。可哀想なくらい。『ごめんなさい』と『すみません』しか言わないし…」
雅紀はゴロンとコタツに横になり朝美の話を聞いていた。
「何が原因なの なんて野暮なことは聞かないけど、そんな顔してるっていうことは…後悔してるってこと?」
「・・・・・」
お茶を雅紀に差出しながら
「真咲ちゃんはさ、どんな時でも一人なのよね。笑いたいときも 泣きたいときも。そうして生きて来たのよね お母さんが亡くなってから ずっと。切ないわね。」
「・・・・・・・・」
「ねえ 雅紀…あの真咲ちゃんを受け止めてやれないなら 付き合うの止めたら?」
「えっ?・・・」
「一人で生きている真咲ちゃんを支えてやれないならってことよ。」
朝美は会長が父親だとは知らない。
「あんなに泣かせて…私の娘だったら出入り禁止よ 娘を泣かせた男なんて。ねえ~」
そう言って自分のお腹をなでる。
雅紀は起き上がり、少しぬるくなったお茶をグイと飲み干すと、立ち上がり車のキーを手にした。
「どこ行くの?」
「いいとこ。夕飯いらないって母上に言って。なんなら先寝ててくれって。」 ニヤっと笑い出かけて行った。
「余計なことするなって叱られるかと思ったら(笑)。世話がやけるね~ おじさんとおばさんは…。」
お腹の子に話しかけながら 朝美は一人お茶をすすった。

『どんな時でも一人なのよね。笑いたいときも 泣きたいときも。』 そう言った朝美の言葉が雅紀の胸に刺さった。
このまま逢いに行ってどうするかはどうでも良かった。ただ真咲の顔が見たかった。
チャイムを鳴らしても返事がない…。病院へ行ったのだろうか?
もう一度鳴らす。小さな声が聞えた。
「真咲ちゃん…開けて。」
うつむいたままで真咲がドアを開けた。ずっと泣いていたのかと思うと自分の胸もキュンと絞められるようだった。
「ごめん…」 強く抱きしめた。
雅紀の背に手を廻した真咲が首を振りながら
「…ごめんなさい…」 と言う。
「いや・・・ごめん。大人気なかったのは俺だから…。ごめん ずっと泣いてたんだろ。」
「・・・・・」
真咲の頬を両手で包んで上げると 目が赤く腫れている。まだ落ちてきそうな涙を指で拭いていると
「…神林さんが…誰…よりも 何よりも…大切なの。だ…から…」 
「真咲ちゃん…」
「…だから…心配…で…」
「うん…わかった…わかったよ…」 胸が熱くなった。

真咲を抱き上げると そのままベッドまで行く。
愛しさのままに 真咲を愛した。

「細い指だね。サイズどれくらい?」
ベッドで真咲の手を取り訊いてみた。クリスマスのプレゼントを何にするか悩んでいた雅紀は真咲の手を見て思いついた。・・・指輪にしよう・・・と。
「判らない…あまり興味なかったから…どれくらいかしら?」
指を広げ宙にかざして見ている。と思い出したように
「そうだ お姉さんから電話きて…私…」 泣きながら話したと言えず困ったような顔で雅紀を見た。
「どうせ大した用事じゃないだろう。ケーキとか…子供のことか…」
雅紀はその朝美のとなりで聞いていたとは言えない。
「でも・・・」
「いいよ。それより病院いこうか?」
雅紀の顔を見ながら ゆったりと真咲が微笑んだ。

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